部下をうまく叱れない ~朝礼で使えるエピソード~

毎朝9時からの朝礼が終わり、デスクに戻ろうとした小山課長(37歳)に、大村部長が声をかけました。
「新人の中川だけど、彼、今朝もまだみたいだな」
「あっ、はい。……そうみたいですね」
「“そうみたい” じゃないよ。君の部下だろう」
「はい……、至急、確認してみます」
ここは社員120名のとある機械器具メーカー。小山課長はこの春昇進し、8人の部下を抱える立場になりました。みな明るく、チームワークは良好。ただ1点、頭の痛い問題がありました。今春入社した中川君の勤務態度です。仕事の飲み込みは早いのですが、朝が弱いのか、朝礼中に出勤することが数回。そして今日も、また――。
「中川だけど、何か連絡あった? 今日休むとか……」
小山課長の問いに、部下は互いに顔を見合わせています。
部下A「何も聞いてません。多分、また遅刻じゃないすか」
部下B「今日はさすがにヒドイな。朝礼丸々欠席だもん」
部下の会話から、小山課長は中川君への厳しい指導を期待されていることを感じ、憂鬱になりました。実は押しの弱い小山課長、部下を厳しく叱った経験がありません。係長時代は部下が優秀で、叱らずとも大過なく回ってこれました。中川君に関しても遅刻の度に反省している様子が見えたので、じき改まるだろうと期待していたのですが……。
「仕方がない、叱るしかないか。でもどうやって叱ろう」
ヤキモキしているところに、中川君が出勤してきました。

【話し合いのテーマ】

今回は「叱る」がテーマです。部下を叱ることの大切さやその方法について話し合ってみましょう。

 

◆Step1 叱るべき時に叱ってこそ思いやり

 

同情・親切は相手のためならず ―― 袁了凡(えんりょうぼん)に学ぶ「戒飭(かいちょく)するは最初にあり」

そもそも部下を「叱る」目的は「相手の過失や欠点を指摘して、本人の気づきを促し、再発防止や更正につなげる」ことにあり、部下の指導・育成上、欠かせない行為です。もっとも、叱ることは大なり小なり人間関係に摩擦(まさつ)を生じさせます。それを嫌って、最近では部下の過失や欠点を認めても何も言わず、本人が自然と気づくのを待つという上司も少なくないようです。
しかし、最初に過失や欠点に気づいたときに許してしまうと、部下はそれをよいことだと思い込んで、次第に過ちが大きくなり、ついには平気で不正をするようになってしまうものです。叱るべき時に叱らないことは、部下自身のためにならないのです。
中国の『袁了凡(えんりょうぼん)四訓』にある話です。賢人の誉れ高い呂文懿公(ろぶんいこう)が、宰相をやめて郷里に帰りました。その時、1人の酔客が呂公を罵(ののし)りましたが、呂公は門を閉めて相手をしませんでした。ところが、この酔客が、やがて死刑になるほどの重罪を犯したのです。それを聞いた呂公は「あの時、すぐ戒めておけばこうはならなかった。自分はただ寛大なところを見せようとして、人を育てる心がなかった」と後悔したそうです。
叱るべき時に叱る。これが真の優しさです。

 

◆Step2 追い詰めるような叱り方はNO

 

反省し、改心できるよう仕向けるには ―― 10の内2、3分ほどは残すべし

部下を叱る際に、あまり相手の過失や欠点を厳しく責めたり、怒鳴ったりすると、かえって相手の反発心を引き出す結果となり、逆効果となることがあります。
かといって、にこやかに叱れば、相手に事の重みが伝わらない恐れもあります。程度よく、態度や言葉に厳しさを織り交ぜる工夫が必要でしょう。江戸期の儒学者・佐藤一斎(いっさい)はこう説いています。「人の過失をとがめる場合には、思う存分に責め立てることはよくない。宜しく10の内2、3分ほど残しておいて、その人がやけを起こさず、自ら改心するようにしむけてやればそれでよい」(『言志四禄』久須本文雄全訳注)。
叱る効果を挙げるには、なぜ叱るのかの動機を明確にすることが大切です。あくまで自分のストレス発散のためではなく、相手のさらなる成長のためと思えば、相手を「思う存分に責め立てる」こともないはずです。
中国古典の『菜根譚(さいこんたん)』には「人を責むるには、無過(むか)を有過(ゆうか)の中に原(たず)ぬれば、即ち情平らかなり」とあります。つまり「失敗のうちにも間違っていないところを認めてやれば、相手も不平を抱かずに反省する」とのことであり、一斎の「10の内2、3分ほど」残して責めてやるという “叱りのコツ” につながります。

 

◆Step3 相手の反抗心を起こさないように

 

叱る基準を明確にしよう ―― 廣池千九郎にみる叱り方のコツ

総合人間学「モラロジー」を創建した法学博士・廣池千九郎は、叱り上手だったことでも知られています。
病を背負った廣池の周辺には、常に数人の側近が帯同していました。その側近は廣池博士の叱り方について「博士は、“この子がこれからの人生を幸せに送れるように” とお考えになるのです。また、相手の性格や家庭事情に合わせて教育をされるので、人によって教育の仕方が違いました。そういう慈悲の深さや行き届いた思いやりを感じるので、どんなに叱られても反抗心は起こりませんでした」と述懐しています。
また別の側近者は、廣池博士が事故の好悪や感情次第で叱ることのなかった点を指摘し「粗相(そそう)をしても、こちらが間違いを十分に反省しているときには、博士はくどくど叱ったりなさいません。しかし、私どもが気のつかないうちに自分中心の心づかいになっているときには厳しく叱られました」と話しています。
叱られたことに対して、部下が反発するときは、上司の叱る基準が不透明な可能性があります。気まぐれに叱っていると思われぬよう、相手の幸せや成長という観点から、自分なりの叱る基準を明確にしておくことが大切です。(参考/モラロジー研究所出版部『まごころ』)

 

◆Step4 部下とともに上司も反省しましょう

 

部下の過失や欠点を反面教師に ―― 叱ることで上司も成長できる

これまで、部下を叱ることの重要性とその際のポイントについて考えてきました。叱ることは、部下を一人前の社会人に育て上げるための重要な教育的行為です。それのみならず、部下を叱ることを通じて、上司自身もまた気づきを得、成長することができます。
まずは、部下の人格的欠点や生活習慣の綻(ほころ)びをみるにつけ、「はたして上司である自分はどうであるか」と、いわば部下の行状を反面教師的にとらえて、自分を見つめ直すようにすることです。
「他人は自分の鏡」といわれますが、私たちは他人の中に自分自身の姿を見ることがあります。他人の欠点や短所が気になるのは、自分の中にも同様の欠点や短所があるからです。もちろん、全てがそうではないでしょうが、いつも靴の汚れた上司に、靴の汚れを指摘されても部下は素直に聞けないものです、常にわが身はどうなのか省みるクセをつけることが肝要です。
さらに、部下の過失や欠点を発見した場合には、まず、そんな部下に育ててしまった自身の不足を反省することです。そうすることにより、相手の欠点や不足を共に補っていこうという慈悲の心が引き出されるのであり、そしてその心が部下をよりよく育てるのです。

(『道経塾』No.51より)

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