増えていくボール

こんにちは。オンラインショップ担当の小林です。

ある日、外遊びから帰宅した息子が
「今日ね、まずいことがあってさ。友達と近くの公園でサッカーをして遊んでいたら、僕が蹴った友達のボールが怖い人の家に入っちゃったんだ。すぐボールを取りに行ったけど、インターホンを鳴らしても誰も出てこなかった。どうしよう……」と、息子。
「怖い人の家なんて、あったかしら? 」と、頭をかしげていると
「みんな、怖いって言ってるよ」と、息子。

「どちらにしても、今日はもう暗いから、明日、一緒に謝りに行こうか。それで、どこのお家なの? 」と、聞いてビックリ!
私が小学生のとき、学童保育でお世話になった先生のお宅だったのです。

翌日、息子と友達と一緒に謝りに行きました。
少し緊張している子供たちに、
「大丈夫! 怖いって皆は言ってるみたいだけど、先生はおそらく“ここが悪い”と、はっきり教えてくださっているだけだと思うから、ちゃんと謝りましょうね」と声をかけ、インターホンを押しました。
「はい」と、先生。
「小林です。すみません。実は昨日、息子の蹴ったボールが敷地内に入ってしまいまして、謝りに伺いました」
するとインターホンの向こうから、
「ああ、ボールを取りに来たのね。もう、ボールには本当に困っているのよ。ちょっと見てくるから待ってね」と、先生の声。

しばらくして、先生は玄関からご自宅の裏手にまわり、ボールを拾ってきてくださいました。
子供に手渡しながら、
「我が家は公園の隣だから、しょっちゅうボールが飛んでくるの。ちゃんと、こうして取りに来てくれるなら良いけれど、なかにはだまって入ってくる子がいるのよ。外から音がするから見てみると、知らない子がいるんだもの。こちらもビックリしちゃう。おばさんは怖いからね、そんな時は『今度は、おばさんがあなたのお家にだまって入っちゃうわよ~』って、その子に言ってやるの。そしたら子供たちに“怖いおばさん”って言われるようになってしまって、今じゃ取りにさえ来なくなっちゃった。だから、我が家にはコレクションするほどボールがいっぱいあるのよ」と、苦笑いの先生。
先生のお話は続きます。
「この公園では、ボール遊びをしちゃいけないことになっているの」と。
「そうだったんですか? 知らなかった。本当にごめんなさい! 」と、私たち。
「わかりやすい場所に看板を立てるとか、行政に対策をしてほしいとずっとお願いしているのよ。だいたいね、今の子供たちにはボール遊びのできる広い公園が足りないのよね。可哀想と思うから、行政に広い公園もお願いしてるんだけど、なかなかね……」と。

“増えていくボールを見るたびに悲しい思いをされているはずなのに、先生は子供たちを気の毒に思っていらっしゃるなんて、お優しいな”と、心が温かくなりました。
「先生は怖い方じゃありません。お優しいです。次回からは、ボール遊びをしないようにします。ありがとうございます」と言って、私たちは先生のお宅を後にしました。

ここで『ニューモラル 心を育てる言葉366日』1月22日「相手の立場に立った交通指導」をご紹介します。
――Kさん(66歳)は毎朝、地元の小中学生の通学路で交通指導をしています。通勤ラッシュで車が多くなる時間に信号のない交差点に立ち、誘導灯で華麗に車をさばいて、子供たちを安全に横断させていくのです。Kさんはこう語ります。
「交通指導を始めた当時はピーッと笛を鳴らして車を止めたんですが、今は吹かないんです。自分が笛を吹かれたらびっくりしますし、先を急いでいたらイライラするでしょう。無理に止めたらドライバーはイライラして、ほかの場所で事故を起こしてしまうかもしれません。だから、まずは車を通して、次に子供たちを渡すんです」
今ではKさんはの姿を見ると自然と停車するドライバー、「待たせてすみません」と頭を下げるKさんはに「お互いさまですよ」とお辞儀で返すドライバーが増えてきているそうです。思いやりの心は、周囲に温かい人間関係を生むのです――

“いつかボールを取りにくるかもしれない”
そう思っていらっしゃるからこそ、捨てられないボールが増えていっているのでしょう。
子供たちがボールを取りに行くことで、
“先生の優しさが子供たちにも伝わればいいな……”と、思う小林です。

 

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