日本人の社会

こんにちは。オンラインショップ担当の小林です。
数年前の1月。地元の森の保全活動の皆さんと“餅つき”をしました。

シニア世代の先輩たちが、子育て世代の若いお父さんとお母さんに、餅の“つき方”や“手返し”を指導してくださるとのこと。
この保全団体の“重鎮”とも呼ばれる大先輩も駆けつけました。
“こわもて”で“職人気質”の大先輩。とくに餅つきには「食べられないような餅はつくな! 」と、厳しい方です。

子供が餅をつこうとすると、
「餅つきにはスピードと力が重要なんだ! 力が足りない子供じゃ餅らしい餅にならん! 大人が最初から最後までしっかりつかなきゃだめだ。子供にはつかせるな! 」と、怒ります。
それでも、子供たちは杵で餅をついてみたくて仕方ありません。
状況を見かねた保全活動の代表は、
「まぁまぁ。今日は販売するために餅をつくわけではなく、自分たちで食べる分をつくのですから大目にみてあげましょうよ」と、大先輩に話かけました。

「オレは食べ物がない時代に育ったから、食べられないような餅にすることだけは我慢がならない! それに、子供たちにも“これが餅だ”ってちゃんと教えてやらなきゃいけないだろう」と、大先輩。
「確かにそうですね。では、大人がつき終えた餅をちょっとだけ子供たちについてもらいましょうよ」と代表。
「……冷めないうちの、少しだけだぞ」と、大先輩。
こうして子供たちはやっと、大先輩からお許しをいただけたのです。

参加者全員でつきあげたお餅は、“あんこ”、“きなこ”、“ネギ醤油”などに調味され、とても柔らかくて美味しい餅となりました。

大先輩は、
「いいか、これが“餅”だよ。この前、ここの秋祭りでついた餅は粒が残っていて食えたもんじゃなかったが、これは美味しいよ! 」と、褒めてくださいました。
少し苦笑いの周囲をよそに、大先輩は真っ直ぐで正直な方なのです。

その日の帰り道、夫が
「今日、オレはここ数年で一番って言ってもいいくらい感動した」と、次のような話をしてくれました。
「お餅をみんなで食べた後、大先輩と広場で話をしていたんだ。すぐ横で数人のお母さんたちが立ち話をしていた。ほら、前に母子が無理心中をした悲しい事件があっただろ。その話が大先輩の耳に入ったとたん『なに? そんなことが近くで起きたのか! そんなことになる前に、俺のところに子供を連れてこい! 』って大声で叫んだんだよ」と、夫。
思わず息をのんだ私。
「まさか、親に怒るつもりで……? 」と、聞いた私に
「俺もそうくると思って一瞬、固まったんだ。でもさ、“そんなことするくらいなら、オレが育てる!! ”って言ったんだよ。びっくりした。まさか、そんな言葉を聞くとは思わなかったから。すごいよな。あんなこと、俺にはとってもじゃないけど言えないよ。だけど、あの大先輩のことだから本当に言ったとおりのことをするだろうなって、そう思ったら、なんだか涙が出てきちゃってさ」と。
話を聞きながら、私の目にもうっすら涙が……。
“大先輩が『俺のところに子供を連れてこい! 』と言ったのは、連れてきた親を怒るつもりじゃなく、『俺も頑張るから、ここは踏ん張れ』と、親身になって寄り添う気持ちを伝えたかったのだな”と。

ここで、小児科医・医学博士の田下昌明さんの著書『親になる前から学びたい 安心の子育て塾』から一節をご紹介します。
“子供は誰のものか――。これにはいろいろな考え方があるでしょう。
(中略)私は次のように考えるようにしています。

「一通の手紙」
私たちのところへ生まれてきた赤ちゃんは一通の手紙を持っていました。開いてみると、
「このたびは健康なお子さんが授かっておめでとうございます。今生まれた赤ちゃんをあなたたち夫婦に預けますので、一人前の社会人になるまで育ててください。二十歳ぐらいになって独立して生活できるようになったら、私たちのところへ戻してください。断っておきますが、この赤ちゃんは差し上げたのではないので、あなたたちの持ち物ではないということをお忘れなく」
手紙はさらに続いています。
「この赤ちゃんを一枚の紙だと思ってください。この紙に、どんな絵でもいいのですが、ひとつ絵を描いてほしいのです。絵の具は何を使っても結構です。そして立派に仕上げてください。絵のでき上がり期限はおよそ二十年です。なお、もし書き損じても代わりの紙はないので、お届けすることはできません。また私たちに戻していただいたとき、その絵が粗悪なもので、そのために不幸な人が何人も出るようなことになったら、それは絵を描いたあなたたちの責任です」。
差出人は「日本人の社会」と書いてあります”

“差出人は「日本人の社会」”の文章を読んで、ふと大先輩の姿が頭に浮かびました。
子供は宝。
社会の皆から愛されている存在だということを教えてくれたように思います。
そして、もう一つ。
誰かを“責める社会”ではなく、誰とでも“寄り添える社会”の一員として、私も精進したいなと思いました。

 

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