相手をよく見ること

こんにちは。オンラインショップ担当の小林です。
20年ほど前。
当時、勤めていた会社のお得意様が主催された講演会に、運営スタッフとして参加したときのことです。私の担当は、講師控え室で、講演時間まで待機される先生方にお茶を出すことでした。

この日、講演を予定していた先生は2名。
時間通りに1人目の先生の講演が始まりました。
順調のように思われた講演会でしたが、2人目の先生が到着予定の時刻を過ぎても会場に到着されません。
だんだんと、周りのスタッフも焦ってきている様子。
「おい、お茶の用意は大丈夫か?いつ、いらっしゃっても出せるよな」と、声がかかり
「はい、大丈夫です! 」と、私。

そこへ、
「先生が到着されましたー!!」と、内線で一報が届くとすぐ、たくさんのスタッフに囲まれ、先生が控え室にいらっしゃいました。

お茶を出したものの、飲む時間もなく控え室を後にした先生。
こうして、2人目の先生の講演会が始まったのです。

私は、控え室でスピーカーの音量を大きくして、講演会の内容を聞いていました。
次のようなお話が聞こえてきました。
「今日は電車で来ました。実は、会場に今さっきついたばかりなんです。駅から、ここの裏口までつながる通路を、遅れてはいけないと一生懸命走って参りました。だから、熱くて熱くて、もう汗だくです。
ところが、通された控え室で、なんと……熱いお茶が出てきたのです。こちらはこんな状態ですから、冷たい飲み物が欲しいじゃないですか。それにどんなに喉が乾いていても、熱いお茶じゃすぐ飲むことはできないでしょう。
こんな時は相手の方に、“熱いお飲み物と、冷たいお飲み物、どちらがよろしいでしょう”と、聞いてさしあげるといいでしょう。
皆さん、ここで思い出してほしいのです。今日は、ホスピタリティをテーマにした講演会です。
相手を思いやり、もてなすという心が、この講演会を運営している側に欠けているとしか思えません。ただ、私は感謝していますよ。この講演会にふさわしい、つかみのネタをくださったのですから」と。

先生の言葉で、ハッとしました。
ただ言われたとおりに「お茶」を出せばいいと思っていた私は、相手を思いやる配慮に欠けていたどころか、「お茶を出すこと」だけにとらわれて、講演会のテーマすら把握していなかったのです。

『モラルBIZプレミア』(平成30年9月号)の中から、「格言に学ぶ三方よし 6」より一節をご紹介します。
――どうすれば、どんな顧客をも喜ばせ、満足させるサービスができるのか。道徳経済一体思想の提唱者・廣池千九郎がある旅館の経営指導をしたエピソードが参考になります。
昭和初期、城崎温泉を訪れた廣池は、旅館の女将を呼び、こう説きました。「あなたの家はなかなか客扱いを考えているが、なお大切なことを教えてあげよう。旅館で一番必要なことは料理がうまいことです。そのうまいということはお客からいうと、自分の好きなものを食べさせてくれるということなのです」。
旅館が「うまい」と思うものを出すのではなく、お客が「うまい」と思うものを出すこと。具体的にはお客が残した品は何か、下げた料理を女将が点検し、把握した好みを献立に活かすよう指導したのです。
「よく観察せずして、相手を真に喜ばせることはできない」。
廣池はこう伝えたかったのでしょう――

「相手をよく見ることが、おもてなしの第一歩」
あの講演会で、先生が伝えたかったこともまさに、これだったのだと今あらためて思い返しています。

 

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