母性のスイッチが入った日

こんにちは。オンラインショップ担当の小林です。
12年前のことです。
帝王切開で生まれてきた息子。しかし、胎便で汚れた羊水が気道に入ってしまったためNICU(新生児集中治療室)がある病院へと救急車で運ばれてしまいました。
息子の顔をしっかりと見ることもできなかった私。
その後、息子の無事が確認でき、熱が出ていた私は“ひとまず良かった”と眠りにつきました。

目が覚めて、
ベッドから起き上がろうとしますが、傷口が開くんじゃないかという恐怖で、お腹に力を入れることができません。傷口を見る勇気もありませんでした。
“ボチボチやっていこう”と自分に言い聞かせ、ふと
“他のお母さんたちは、産後すぐでも寝ずに赤ちゃんに母乳を与えたり、オムツ替えをしているんだろうな”と思いました。
赤ちゃんがここにいたら、痛いとか言っていられない。こうして、ゆっくり休めることはありがたいことなんだ。そう思いました。

2日目から、リハビリを兼ねて部屋と授乳室を行き来するようになりました。授乳室で母乳を搾乳し、その母乳を息子が入院する病院へ毎日届けることになったのです。搾乳し、冷凍した母乳を夫に託す。それが、その時の私にできることでした。
部屋に戻り、一人になって、だんだん気力と体力が戻っていることを感じていました。
すると突然、これまでなかった感情がグッと湧き上がり、涙が溢れて止まりません。
“あれ? なんで泣いているだろう。だって、息子は安全なところにいるし、一人でゆっくりできる時間はありがたいと思っていたくらいのに”
悲しみの“か”の字すら感じていなかった私が、まさか、感情をコントロールできなくなるなんて、自分でも信じられないくらいでした。

次の日も部屋で一人きりになると、悲しくて涙を止めることができません。
夫や両親にも、そのことは話していませんでした。
人知れずシクシクと泣いていたのです。
すると、深夜に
「トントン」とドアをたたく音が。
主治医の先生が、様子を見に来てくださったのです。
突然の訪問に、泣いていた顔を直す暇もなく涙をぬぐった私。
すると先生は
「やっぱり、お母さんには赤ちゃんがいないとね。今日、向こうの先生に電話して聞いてみたら、赤ちゃんはだいぶ元気みたいだ。そんなに元気なら、予定より早く退院できないか、私から聞いてあげるよ」と。

次の日も、シクシク泣き始めると、不思議に先生がドアをたたき、励ましてくださいます。
“なぜ先生は、泣きたくなるバッチリのタイミングでいらっしゃるのだろう。産後は感情が不安定になる……これも、そういうことなのだろうか? ”そう思ったら、なんだか安心することができました。
そして先生は、嬉しいニュースを持ってきてくださったのです。
「お母さん。今日、向こうの先生に電話したらね、なんと!! 明日、退院していいってさ! だから、お母さんも元気を出して。ほら、赤ちゃんが帰ってきたら忙しくなるぞ~」と、先生。
もう、悲しい涙は出なくなりました。

こうして息子は元気な姿で、思っていたよりも2日も早く、帰ってきました。
先生には今でも感謝の気持ちでいっぱいです!

ここで、小児科医・医学博士の田下昌明さんの著書『親になる前から学びたい 安心の子育て塾』から一節をご紹介します。
――ここで『暴力なき出産』という本を著わして、「誕生の心理学」の視点から、現代の出産のやり方は生まれてくる赤ちゃんにとって極めて暴力的だと訴えたフランスの医師フレデリック・ルボワイエが、赤ちゃんの悲痛な叫びとして表現した問題点を紹介いたします。
・目が焼き切られる…分娩室の手術用の照明
・耳をつんざくごう音…大声でしゃべる大人たち
・いばらに包まれて…タオル、荒い布、時にはブラシ(これまで子宮の粘膜にしか触れたことがない)
・逆さ吊りの刑…泣かせて、生きていることの勝手な確認
・氷の体重計…金属の体重計(これまで胎児は冷たいということを知らない)
・目薬の攻撃…薬液の点眼 ――

温かい子宮から外に出された赤ちゃんにとっては、外の世界がこんなにも過酷だなんて!!
出産前に読んでおけばよかったと思う一冊です。

理想的な出産とはいえない私の体験ですが、今にして思えば……
「自分の本当の気持ちに気づいて涙が止まらなくなったあの日」が、私自身に“本当の母性のスイッチが入った日”なのかもしれません。

 

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