ナイル川のアリ~学校のちょっといい話~

運動会が行われる時期になりました。A君は体が大きく体格がいいので、いつも組体操では、下の土台になることが多い児童でした。A君は、くずれると下敷きになり、いつも痛い思いをするので、嫌でたまりませんでした。そんなとき、担任の先生が、次のようなエジプトのナイル川を渡るアリの話をしました。
エジプトにナイル川という大きな川があります。長さは約6700キロメートル、川幅は狭いところで500m、広いところは50~60㎞もあります。この川をアリが渡るそうです。一度に3000匹も渡るのです。ではどうやって渡るのでしょうか。
それまで長い行列をつくって歩いていたアリたちは、川べりに来ると次々に重なり合って団子状態になります。そうして、川をポッカリポッカリと浮かんで流れながら渡ります。
しかし、3000匹のアリがボールのような塊になって浮かぶといっても、ピンポン玉のように全部水面上に出るのではなく、水面の上に出るのは三分の一のアリで、残りの三分の二は水の中です。
水面より上に出たアリは大丈夫ですが、水の中のアリはどうでしょうか。
水につかったままだと、水の中のアリは息ができずに死んでしまいます。でも固まっているアリたちはボールの形をしたままで移動しているのです。
水面より上のアリたちは空気を吸った後、下に移動します。そしてぐっと我慢しながら上のアリを支えます。川に流されていく途中で、水面の上のアリは次第に水の中に入り、そのかわり水の中にいたアリは水面の上に浮かび上がります。しばらくの間は水の中にいても大丈夫ですから、このように交替しながら潜ったり、水面の上に浮かんで息をしたりします。これをくり返し、回転しながら川を渡りきるのです。こうして、犠牲をほとんど出すことなく、あの大きなナイル川を渡ってしまうのです。途中、どこかの川岸に流れつき、そこでようやくアリのボール状の塊はくずれてみんな歩き始めます。このアリたちの川渡りは、微妙なタイミングとバランスが不可欠です。もしも、3000匹のアリたちが1匹でも自分だけ楽をしようとして、いつも水面の上に出ようとするなら、何匹ものアリが死に、ついには全滅してしまう恐れがあります。
この話を聞いて、A君は嫌な気持ちがなくなり、新たな気持ちで組体操に参加できるようになりました。

(『学校のちょっといい話』より)