雑用ばかりで仕事がつまらない ~朝礼で使えるエピソード~

文房具メーカー(社員120名)に勤めている鈴木さん(24歳・仮名)は2年前、文房具の新製品の企画・開発がしたくて入社し、希望どおりの製品開発部に配属となりました。しかし、2年経っても、もっぱらアンケート調査の集計などの仕事が多く、新製品の企画を練り上げる時間がありません。自分の企画を会議に出したこともありましたが、まだ1度も採用されたことはありません。「今度こそは」と翌日の会議に向けて、企画書を練り上げている最中のこと、直属の大山部長に呼び止められました。
大山部長 「鈴木くん。悪いが、発送室の梱包業務を手伝ってくれないか」
鈴木さん 「えっ、私がですか……」
大山部長 「この時期は、注文が多い時期なんだよ」
鈴木さん 「……は、はい」
鈴木さんは “なんで自分がやらなくてはいけないのか、なんでこの肝心なときに” などと思いながら、しぶしぶ返事をしたのです。発送作業を手伝いながらも “こんなつまらない仕事は雑用であって、自分の仕事ではない” などと不平不満の気持ちがいっぱいでした。
発送作業が終わっても、鈴木さんの心は穏やかではありません。早速企画書に向かいますが、焦る気持ちが先に立ち、書いては消しての繰り返し。そして翌日、なんとか提出した企画は、「詰めが甘い!」とのひと言と共にあえなく押し返される始末。
帰りの電車で鈴木さんはつぶやきました。
「やめようかなぁ」

【話し合いのテーマ】

現在のあなたの立場から、鈴木さんにイキイキと働き、幸せな人生を送れるように助言するとしたら、どのようなことを話しますか。

◆Step1 「仕事」を「作業」にしていませんか?

「心をこめれば仕事が変わる」 ―― 雑用という仕事はありません

上司から命じられたことを「仕事」としてやるのか、「作業」や「雑用」としてやるのか。それは、ひとえにあなたの心の持ち方にかかっています。
例えば、あなたがコンビニで買い物をしたとき、レジの店員が、おつりのお札の向きをそろえ、つり銭が手からこぼれ落ちないようにしながら、「ありがとうございました。また、お越しくださいませ」と笑顔で言ってくれたなら、きっとあなたは心地よさを感じるでしょう。しかし、お札の向きはバラバラで、つり銭の渡し方も雑。そのうえ、面倒くさそうに「ありがとうございました」と言われても、全然いい気持ちはしないはずです。
一連の動作に心が伴っていなければ、それは単なる作業になりますが、そこに心を込めることができれば、それは立派な “仕事” になります。その業務がつまらないのではありません。つまらなくしているのは、あなたの心です。心をこめれば “雑用” という名の仕事は1つもないのです。
自分のやるべきこととして、1つひとつに心を込めて取り組めば、すべてが意味のある「仕事」になるのです(モラロジー研究所刊『未来をひらく人間力』参照)。

◆Step2 やらされる仕事は「苦しみ」 やる仕事は「喜び」を生む

「どうせやるならイキイキ楽しく」―― ㈱タニサケ・松岡会長に学ぶ

社員37名と小所帯ながら「日本一の知恵工場」として知られ、全国から連日、見学者が訪れる岐阜県の医薬部外品メーカー・㈱タニサケ。会長の松岡浩さんの出社は朝6時すぎ。会社へ着くとすぐ社内のトイレ掃除を始めます。毎日毎日やり続けてはや15年。当初は幹部社員と2人で始めた掃除も、続けるうちに社員の中から手伝う人が増え始め、いまでは始業までに、トイレをはじめ工場の床、会社周辺の市道までがピカピカに。額に汗する社員の表情はみなイキイキとしています。
松岡さんは言います。「やらされる掃除は、決められた範囲だけやったら終わり。そこには気づきも喜びもありません。一方、やる掃除は進んで汚れたところを見つけて範囲を広げていきます。だから、心も磨かれます。やらされる掃除は苦しみ、やる掃除は喜びなのです」(モラロジー研究所刊『喜びの生き方塾』参照)。
同じ1時間分の仕事でもイヤイヤやるのと、自ら進んでやるのとでは、仕事の質も違えば、周囲に与える影響も違う。その差が積み重なれば、やがて大きな違いを生みます。「せっかくやるなら、イキイキ楽しく」やる仕事があなたの人間的成長につながるのです。

◆Step3 頼まれごとは「試されごと」と考えよう

0.2秒で「はい」の返事を ―― 人なつき術の達人・中村文昭さんに学ぶ

㈲クロフネカンパニー社長の中村文昭さんはこう教えてくれています。
上司や先輩に仕事を頼まれたとき、それが自分にとって得だと思えないと、「なんで私が」という思いが先に立ち、しばらくしてからしぶしぶ承諾する人が多いもの。けれども、そもそも上司や先輩からの頼まれごとというものは、基本的には断れないもので、たいていは承諾することになるはずです。それならば気持ちよく、こちらのやる気を相手に伝えた方がずっとプラスになります。頼まれたらまず、損得を考える前に、「はい」と0.2秒で快く返事をしてみることです。
また、仕事を頼んでくる人は、あなたにその仕事をこなすだけの力があると思って頼むのです。いわば「頼まれごとは試されごと」。与えられた仕事を期間の半分で仕上げる、仕事の質をぐんと高いものにするなど、予測を超えた仕事をするよう心がけましょう。それでこそ、周囲からの信頼と評価を得ることができるのです。(参考図書/PHP研究所刊『出会いを生かせば、ブワッと道は開ける!』)。

◆Step4 仕事を頼む上司の立場で考えてみる

主催者の側に立て ―― 廣池千九郎、芝居小屋の事例に学ぶ

80年ほど前に、総合人間学「モラロジー」を打ち立てた法学博士・廣池千九郎に、次のような人間指導の逸話があります。とある温泉旅館の近くを歩いていたときのこと。ふと廣池博士が随行の若者へ「あそこに芝居小屋がかかっている。入場料を払って見物して、あの役者は上手いとか下手だとか批評してもそれだけのことです。それより幕引きでも下足番でもよい、芝居を主催する側になって働いてごらん。芝居が終わったとき、何らかの報酬がいただけますよ」と語ったという話です(モラロジー研究所刊、井出元「エピソードが語る廣池千九郎博士」CD版収録)。ここでの報酬とは、人様に尽くす中で得る「喜び」であり、心と人生をレベルアップさせる精神的報酬です。
あれこれと上役の仕事振りを批評するのは簡単です。「急な指示ばかりして」「なぜ私に?」。こんな思いをしたときは、一呼吸おいて考えてみましょう。あなたがもしその上司の立場だったら、どういう思いで指示を出しているのだろうかと。「仕事を命じられたときは上司の視点で。仕事を命じるときは部下の視点で」。ほんの10秒、相手の立場に身を置き、心を重ねてみてください。作業が「仕事」へと変わるはずです。

(『道経塾』No.49より)

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