挨拶なくても仕事はできる? ~朝礼で使えるエピソード~

「おはようございますっ」
梅雨明けの晴天が続く8月の初旬、ある海外有名菓子ブランドメーカーの日本法人に勤める呉紀子さん(22歳)が、今日も元気に出勤してきました。呉さんはこの春、入社したばかりの1年生。4月から2か月間の研修を受け、6月から本社の人事課に配属されました。
経験豊富で語学力のある優秀な先輩に囲まれ、社員研修の立案や直営店の採用戦略など、補助仕事ながら業務にはやりがいを感じています。ただ最近、1つだけ心にひっかかることがありました。みな、挨拶がいい加減なのです。みな悪い人ではないのだけれど、毎朝呉さんが挨拶しても、視線を向ければいいほうで無視されることが大半。
当初は “自分はまだ半人前だから……かな” と思っていましたが、よくよく観察してみると先輩同士もみな同じ。職場自体に挨拶を交わす習慣がないようです。
それは新人の呉さんにとって二重の驚きでした。新入社員研修では「挨拶はコミュニケーションの基礎」と教えられ、よい挨拶は社会人の第1条件と信じていました。それに課内で先にまとめた店舗の採用方針でも、「好感度の挨拶」ができる人材を優先条件に挙げていたのです。先輩もみな挨拶の大切さはわかっているはずなのに……。言っていることと、やっていることが違う――。
いつしか呉さんの心の片隅には、不信感が芽生え始めてきました。たかが挨拶、されど挨拶。

【話し合いのテーマ】

あなたの職場はどんな状況でしょうか。挨拶は活発ですか。
活発でないとしたら原因はなんだと思いますか。いい仕事といい挨拶、その関係について話し合ってみましょう。

◆Step1 挨拶の本質を外していませんか?

相手の懐に飛び込む気持ちで ―― いい挨拶なくして、いい仕事はありません

いい仕事といい挨拶。この関係を考えるに当たって、まず挨拶の意味から考えてみましょう。
挨拶の語源は、仏教語の「一挨一拶(いちあいいちさつ)」。「挨」の字には、押し開く、互いに近づくという意味があり、「拶」には、せまる、すり寄るという意味があります。つまり挨拶の本質は、みずから胸襟(きょうきん)を開いて相手の懐に飛び込むこと。初対面の人に丁寧な挨拶をすることは、“私はあなたに敵対する者ではありません” という敬服の意思表示をすることでもあるのです。挨拶がコミュニケーションの第一歩と言われる所以(ゆえん)です。
この本質から考えた場合、極端に言えば挨拶をおざなりにするということは、私はあなたとよりよい人間関係を築く意思はない、と態度で示していることになるのです。よい仕事は、よい人間関係から生まれます。気持ちのよい朝の挨拶は、社会人がまず身につけるべきビジネスの基礎中の基礎と言えるでしょう。
何事も続けるうちに習慣となり、習慣が心をつくります。職場で社内で、人に会ったら、自分の人生の習慣作りと心得て、みずから進んで挨拶をしていきましょう。そのよき習慣は必ずやあなたの人生に実りを、周囲に笑顔を増やしていくはずです。

◆Step2 相手の返事を期待していませんか?

挨拶はあなたの心をつくるためのもの ―― 挨拶で悪い心をつくっては本末転倒です

挨拶は自分から相手に近づいていくものですが、今回の呉さんのように、投げかけた挨拶に反応が返ってこないことは十分にあり得ます。
しかし、ここで重要なことはあくまで「みずから心を開くこと」です。相手が返事をしないからといって、“あの人は冷たい人だ” とか、“何を考えているんだろう” と悪く思わないことが、挨拶の鉄則です。人によっては、仕事のことで頭がいっぱいだったり、考え事をしていて気づかなかったりすることも多々あります。相手の気持ちに寄り添うことなくして、質のよい挨拶はできないのです。挨拶とは先手必勝の自主的な心配りと心得ましょう。
また、相手の返事を期待するようになると、心が疲れて、続かないようになります。期待して返ってこなければ落胆も大きく、やる気がそがれるのです。
さらに挨拶のたびに相手を責めていては、日に日に人を責める悪い習慣ができてしまうことになります。挨拶はギブアンドテイク、ではなくギブアンドギブと割り切って、常に謙虚な気持ちで行いましょう。それが、あなたの人間的成長にもつながっていくのです。(モラロジー研究所刊『未来をひらく人間力』参照)。

◆Step3 1日を柔らかな心で始めよう

挨拶がつくる “譲り合いの心”―― 全国から人が集まる教習所・MDSに学ぶ

島根県益田市にある自動車教習所、㈱益田ドライビングスクール(以下MDS)は、“若者を変える教習所” といわれ、その噂を聞いて毎年6千人が全国から集まります。MDSに入ると、当初は伏し目がちだった若者が、卒業前には人が変わったように晴れ晴れとした顔で、仲間たちと喜びを分かち合うようになります。そんなMDSのルールは1つだけ。それは、「人に会ったら挨拶をする」ことです。顔見知りでも、初対面でも、とにかく人に会ったら挨拶です。
構内にある「あいさつ通り」と呼ばれる小路(こうじ)には、「狭い小路にはあいさつがよく似合います」と書かれた看板が掲げられています。小路では、お互いの顔が見える距離ですれ違うので、気軽に挨拶することができます。結果、「おはようございます」「こんにちは」といった声が行き交うのです。
会長の小河次郎さんは言います。「ドライバーに求められる “譲り合いの心” “いたわりの心”は、“頑(かたくな)な心” からは生まれてきません。心をほころばせることが重要です。では、心をほころばせるには、どうしたらよいか。そこで浮かんだのが “挨拶” なのです」(PHP研究所刊『全国から人が集まる不思議な自動車教習所』参照)。

◆Step4 「どうぞ今日一日」の心で

相手の幸せを祈る挨拶を ―― 廣池千九郎・青年への指導事例に学ぶ

総合人間学「モラロジー」を創建した法学博士・廣池千九郎が、モラロジーの講演のため、全国を行脚(あんぎゃ)していたときの話です。福岡に滞在した際、ある町役場に勤める青年が面会に訪れました。廣池博士は、その青年に仕事の要点として次のような話をしました。
職場に着いて戸を開けて「おはようございます」と言うときには、「そうぞ今日一日、ここで勤務する人が無事故でありますように」と心を込めて念じなさい。そういう精神が、同僚とか下の者や上司に、知らず知らずの間に「あの男は柔らかい、何かと物事を頼みやすい、責任あることを任せてやれそうだ」というように段々と信用をつけていくものだ(廣池学園出版部刊『晩年の廣池千九郎博士』参照)。
あなたは毎朝挨拶するとき、心に何を思うでしょうか。喜びや希望か、怒りや失望か。百回、千回と積み重なれば、その差は形となって表れます。ですから挨拶をするとき、相手の幸せを願いましょう。仕事で忙しそうな人には、「おはようございます。何かお手伝いできることはありませんか」など、ひと言加えるのもいいでしょう。相手の幸せを願う挨拶ができれば、おのずと周囲も変わってくるはずです。

(『道経塾』No.50より)

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