先生、ありがとう ~道徳の授業で使えるエピソード~


「私は前任校で学級崩壊を起こしました。ですから、担任をする自信がありません。」新年度から新しく本校に赴任することになった先生からの言葉です。
「君には申し訳ないが、本校に教員として勤務する以上、遊ばせておく訳にはいかないよ。どうする?」内心困ったなと思いながら、彼女からの言葉を待ちました。
「図工専科にはなれないでしょうか。美術の教員免許をとるために、通信教育を受けています。」
「よかった。丁度、図工専科の先生が転勤になったので空きができたところです。勉強しながら、美術の先生として成功してください。ただし、私は美術について鑑賞眼を持っていません。どのような絵が上手で、何が下手かを判断できないので、あなたの指導について評価できない。ついては、外部にその判断をしてもらいましょう。先生が上手にできたと思われる作品を展覧会やコンクールに応募していただけないでしょうか。これが、図工専科になるための条件です。」と話したところ、I先生の顔色が輝きました。
四月から五・六年の図工専科としてI先生の経歴がスタートしました。I先生は図工を教えながら、一生懸命、通信教育のレポートを提出したり、夏季休業中にはスクーリングに出席したりして頑張りました。県の絵画コンクールをはじめ、ポスター展や絵画展によいと思った作品の応募を重ねました。次々と入賞させ、子供たちに自信を待たせ、保護者からも喜ばれました。
ある日、国際児童画コンクールに応募した作品が優秀賞に輝きました。県内で選ばれたのは一人。
「どんな絵が入賞したの?」「これです。」
見せていただいた絵は、どう見ても私だったら選びそうもない絵でした。
「どうしてこの絵がすばらしいの?私には鑑賞眼ないことが証明されました。先生、この絵を応募してくださって、本当にありがとうございました。」
I先生は学級崩壊という屈辱から立ち直りました。教師として、図工専科として、本校にはなくてはならない存在になりました。

(『学校のちょっといい話』より)