リーダーなんて柄じゃない~ビジネス朝礼で使えるネタ ~


桜のつぼみが膨らみを増す3月の中ごろ、従業員150名のS印刷の営業部に勤める松井一郎さん(29)は、朝一番の電話を終えたところで、部長に呼び出しを受けました。
「君に折り入って話がある」と原部長。
「……なんでしょうか」
「松井くんも知っているように、わが社は今、とても厳しい状況にある。古くからの取引先に支えられ、安泰と思っていた営業基盤も、近ごろは低価格の他社から激しい切り崩しを受けている」
「存じています。このところの不況を背景に、質よりも安さにこだわるクライアントが増加しています」
「そこでだ。君に新年度から、当社の新事業であるデジタルメディア部門の営業リーダーをやってもらいたい」
「私がですか!?」
「君にだ。これからのITやウェブ時代の対応は、感覚の新しい若い人に任せたい。スタートは5人体制でやってくれ。人選の要望があれば……」
「ま、待ってください。私がリーダーだなんて。自慢じゃないですが、小学校の美化委員長以来、長がつく役目はしたことがないんです。小笠原課長みたいに人を惹きつけるカリスマ性もないし、木村くんのように話し上手でも……」
「名選手必ずしも名監督にあらずだ。別にリーダーが強打者でなくとも、チームをまとめて成果を出すことはできる。私は君の誠実さを買ったんだよ」
急な指名にとまどう松井さん。リーダーとして必要な心のあり方とは・・・。
以下の事例をもとに皆さん、お考えになってください。

 

◆Step1 リーダーにカリスマ性は不要

 

話しベタでも強くなくてもいい――どう周囲の力を引き出すかが重要

リーダー(Leader)とは「指導者、先導者」と訳され、多くの人は、パワフルで話し上手、人を引っ張る「カリスマ的存在」とのイメージを思い浮かべます。
一方、現代マネジメントの父、ピーター・F・ドラッカーは「リーダーシップにカリスマ性は必要ない」との主張を貫いています。
「今世紀、最もカリスマ的なリーダーが人類に最も害をなしたリーダーだった。それがヒトラー、スターリン、毛沢東だった。重要なのはカリスマ性の有無ではない。リーダーシップとは人を惹きつけることではない。惹きつけるだけでは扇動者にすぎない」(『道経塾』37号、上田惇生「ピーター・F・ドラッカーに学ぶ」より)。
組織活性化コンサルタント・川村透さんは、多様性ある現代のリーダーは「カリスマ性もなく、強くなくてもいい」と主張します。
「僕自身、ずっと自分にはカリスマ性がないことが悩みでしたが、あるとき『みんなの力を引き出す役に徹すればいいのだ』ということに気づいたとたん、スッキリしました」「自分の弱いところをオープンにできる人ほど強い。部下は安心して、あなたを信頼するようになる」(平成20年5月13日付『日本産業新聞』より)

 

◆Step2 人望は日々の反省から創られる

 

怒鳴ってもついてくるその人望とは――ホンダの創業者、本田宗一郎に学ぶ

「人望とは、リーダーが部下をぐいぐい引っ張っていく能力ではない。黙っていても部下がついてきてくれる能力のことをいう」。アメリカンフットボールの名プレーヤーだったスティーブ・ヤングの言葉です。臨床スポーツ心理学者の児玉光雄氏は、この言葉を引いて「人望とはたとえ理不尽な要求をしても、部下が進んで動いてくれるパワーのこと」と定義づけています(『道経塾』47号、「二つの心理法則を理解しよう」より)。
時に社員を怒鳴りつける一面を持ちながら、戦後最も人望ある経営者とされたホンダ創業者の本田宗一郎氏。本人の述懐からその人望の秘訣が垣間見えます。
「現役時代、私は失敗をした者を本気で怒鳴りつけ、ときには手を上げたこともあった。しかし、あとになるときまって、『ああまでいわんでも、オレもバカだな』と思って、自分が自分で嫌になってしまうのだった。ミスをおかした当人も、やろうと思って失敗したわけではない。寝る間も惜しんでやった結果なのだ」
本田氏は「反省とは自己との闘争」であると述べています。「他人の気持ちになれる人というのは自分が悩む。自分が悩んだことのない人は、まず人を動かすことはできない」(『本田宗一郎一日一話』PHP文庫)

 

◆Step3 弱さの自覚が強さを生む

 

部下に使われてこそ上司――経営の神様、松下幸之助に学ぶ

小学校4年で中退し、努力のすえ一代で松下グループ(現・パナソニック)を築いた松下幸之助は、その人使いのうまさなどから「経営の神様」と呼ばれています。
では、その人使いのうまさはどこからくるものだったのでしょうか。それは幸之助自身の「弱さ」から生まれたと、晩年の22年間、傍で薫陶を受けた江口克彦・元PHP研究所社長は語っています。
「松下は自分を学問も、取り立てての才能もない凡人と認識していた。従って自分の周囲に集まってくれる人々はことごとくすばらしい人間に思えた。思えただけでなく、どの人もたいていが松下の予想以上の成果を出してくれた」(『いまだから松下幸之助』PHP研究所)
人に命令する立場となると、自分が偉くなった気がして、目下の部下の心にうまく寄り添えなくなりがちです。その点、幸之助はこう述べています。
「『ああせいこうせい』と命令しても心の奥底では、『頼みます』『お願いします』さらには『祈ります』といった気持を持つことが大事だと思う。(中略)ただ命令しさえすれば人は動くと思ったら大変なまちがいである。指導者は一面部下に使われるという心持を持たねばならないのである」(『松下幸之助一日一話』PHP研究所)

 

◆Step4 人育ては粘り強さと愛育力

 

母鳥のひな鳥を擁するごとくに――廣池千九郎の人づくりに学ぶ

最後に部下を育てるリーダーの心構えを考えてみましょう。日産自動車の志賀俊之元COOは、自身が部下時代に感銘を受けた上司の対応を次のように語ります。
30代のころ、4年かけた海外事業計画が一転、白紙とされ、悔しさのあまり未進出の外国に一人で事務所を開設する提案書を役員に提出。思いがけず承認されます。もっとも電話も仕事も一切なし。若気の至りだったと思いつめる志賀氏。そこへ開設を承認した役員が「再起するんだろ。ちゃんと見てるからがんばれ」と言ってくれた。それがどんなにうれしかったか。
人は苦労を乗り越えて成長します。その機会を、心を鬼にして与えるのもリーダーの重要な役目です。

(『道経塾』No.59〈2009年3月発刊〉より)

今、さまざまな例を提示しました。よきリーダーとなるには、一足飛びにはできません。相手を思いやり、日々、自分をつくっていく姿勢が大切ではないでしょうか?

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