「笑顔」のちから ~学校のちょっといい話~


A校長が着任して二ヶ月が過ぎた頃でした。昼休みに四年生のM子とこんな会話をしました。
「校長先生っていいよね。」「どうしてだい?」「だって、校長先生はいつもニコニコしているでしょ。それって、いつも嬉しいことがあるってことでしょ。」
「と、とんでもないよ。校長先生の仕事はとても大変で、辛いことばかりだよ。」
「じゃあ、どうしてニコニコしているの?」
「どうしてって、辛くていやなことが多いからニコニコしているんだよ。」
「なにそれ、バ~カみたい。」
「M子ちゃん、あなたは勘違いしているよ。」「何が、ですか?」
「M子ちゃんは嬉しいことや楽しい時だけニコニコするということ?」
「誰だってそうでしょ。苦しい時や悲しい時は皆泣きたくなるし、暗い表情になるでしょ。ニコニコなんてできないわよ。」
「そこなんだよM子ちゃん、校長先生の言いたいところは!」
と言って、M子に質問をしました。
「苦しい時や悲しい時に暗い表情をすれば、その苦しさや悲しさはなくなるの?逆でしょう。それを大きくしたり、新たな苦しさや悲しさを呼び込んでしまったりするんだよ。M子ちゃんは『泣きっ面に蜂』という諺を知っているでしょ。それはそのことを言っているんだよ」
「だから、M子ちゃん!苦しく悲しい時にこそ、笑顔だよ。作り笑いでもいいからニコニコすると気持ちが少し楽になるよ。そして、いつもニコニコしているとね、神様は『ああ、この子は、ニコニコが好きなんだ。それならニコニコすることを一杯授けてあげよう』と、苦しいことや悲しいことを消してくれるんだ。」
すると、今度はM子が声を強めて言った。「お正月にやったかるた『笑う門に福来る』があることを思い出した!」

夏休みを控えたある暑い日に、M子の母親が校長室を訪れました。娘が最近、明るくなったといいます。先日も些細なことで夫婦喧嘩をしてしまったが、娘が「ママ怖い顔!こんな時こそ、笑顔だよ」と真顔で訴えたといいます。

(『学校のちょっといい話』より)