「今からやろう」と思っていたのに……
例えば学校の宿題。大人だったら仕事や家事など。早くやったほうがいいことは分かっているけれど、なかなか手がつかない……そんな経験はないでしょうか。そして、他の人から「もうやったの?」と指摘されたりしたら、ますますモヤモヤした気持ちになるもの。こうした自分自身の「心の動き」を見つめ、どうしたら気持ちをうまくコントロールできるかを考えるのも、大切なことではないでしょうか。
■お母さんがあんなことを言うから……
小学4年生のK君の、ある夜の出来事です。毎週楽しみに見ているテレビ番組が終わりに近づいたころ、K君は宿題の存在を思い出しました。
“これを見終わったら、やらなくちゃ”
頭の隅でこんなことを考えていた、そのときです。お母さんが言いました。
「宿題は終わっているの? まだならこの後、すぐにやりなさいよ」
「分かってるよ! 今そうしようと思っていたところ!」
K君は、思わず大声で言い返してしまいました。やがて番組が終わり、自分の部屋で机に向かってみたK君ですが……
“お母さんがあんなことを言うから、やる気がなくなっちゃったよ”
■「自分の心」を見つめてみる
同じようなことは、大人でもあるかもしれません。
例えば仕事が立て込んでいるとき、ちょうど取り掛かろうとしていた仕事について、上司から「例の件はもう着手しているか?」と尋ねられたりしたら……
もちろん仕事であれば、指摘されたからといって簡単にやる気をなくしたり、言い訳をしたりはできないでしょう。それでも、思わず「ちょうど今、取り掛かろうとしていたところなんです!」と言いたくなることもあるのではないでしょうか。
ここで、どうして“これからやろう”というときに口を挟まれると、やる気がそがれるのかを考えてみましょう。
一つには、自分の中で「自主的にやろうとしていたこと」が「指示されたからやること」に変わってしまうから、ということが言えます。また「相手から“この人は言われなければやろうとしない”とか“忘れているに違いない”と決めつけられた」という自分自身の思い込みも、意欲を下げる原因になっているのかもしれません。
こんなとき、どうしたら前向きな気持ちで取り組むことができるかを、道徳の授業で考えてみてはいかがでしょうか。例えば……
◯どうせやらなければいけないことなら、後回しにしないようにする
◯宿題の前に見たいテレビがあるときは、先に「これを見終わったら宿題をする」と、自分で宣言する
◯人から注意を受けたときは、“どうせ相手は自分のことを信用していないんだ”などと邪推することなく、素直に受けとめる
■どうしたら自分も相手も安心できる?
“今からやろう”と思っていたことを他者から指摘されたとたん、力が抜けてしまう――それは誰もが思い当たる心のはたらきではないでしょうか。
一方で、他者の指摘を「余計なひと言」ととらえたままでは、やるべきことに、いやいや取り組まざるを得なくなるでしょう。
しかし、同じ「やらなければならないこと」であるのなら、前向きに取り組みたいもの。仕事にしても、「与えられて仕方なく、いやいや取り組んだ仕事」と「みずから目標を達成する喜びを持って取り組んだ仕事」や「相手に安心をもたらすつもりで取り組んだ仕事」とでは、できばえも達成感も異なるのではないでしょうか。
また、たとえ指摘を受けたとしても“気にかけてくれてありがたい”といった前向きなとらえ方ができたなら、やる気を失うことなく、相手への感謝の気持ちに変えることができます。
日々、直面する一つ一つの物事を“自分も相手も安心できるように”という視点で前向きにとらえ直していく。そうした心の姿勢が、人間関係に潤いを与えるとともに、自分自身の心豊かな人生を形づくっていくのです。
(『ニューモラル』565号より)