住みよい地域をつくる

住みよい地域とは、どんなところでしょうか。生活環境が整っている、通勤・通学の便がよい、行政サービスが充実している……。人によって、さまざまな考え方があるでしょう。しかし「住みよい地域」とは、「あらかじめ整えられた環境」だけでなく、そこに住む一人ひとりの心がけや行動によって形づくられていく面もあるのではないでしょうか。

■町内会の仕事って?

会社員のKさん(45歳)は、最近、知人から頼まれて、町内会の仕事を手伝うことになりました。

これまで、あまり地域の活動に関心を寄せてこなかったKさんは、町内会の活動に関わるようになって、その仕事の多さに驚きました。例えば、行政からの連絡事項に関する書類の配布・回覧・掲示。夏祭りなどの町内行事の運営。防犯や防災、環境美化のための取り組み。町内にある街灯の管理……。

中でも驚いたのは、住民の要望への対応です。

「庭木の枝が道路まで張り出している家がある。通行の邪魔になるので剪定するように連絡してほしい」「近所の人が、のら猫にえさをやっている。やめるように言ってほしい」……

こうした隣近所のトラブルについても、町内会の役員が間に入ることがあるそうです。

■一人ひとりの協力があってこそ

あるとき、町内の一部の地区でゴミの集積所の移転をめぐる話し合いが紛糾。Kさんも町内会長と一緒に、その話し合いに立ち会うことになりました。

ゴミの集積所は、利用する住民自身の責任で、みんなの合意のうえで場所を決めるのが、この地域のルール。それでも、自分の家のすぐ前にゴミが積まれることには抵抗がある……。皆がそんな思いを抱くばかりでは、事態は動きません。

「集積所の場所が問題になるなんて、これまで考えもしませんでした。私自身、なんでも地域や行政にしてもらうのが当たり前と思っていたのかもしれません。つい最近まで、町内の街灯が切れていても“早く交換してくれればよいのに”と思うだけでしたし……。一人ひとりの協力があってこそ、この町での暮らしが成り立つんですね」

話し合いの経過を見守ってきたKさんは、そう言います。

■誰もが「社会を支える存在」に

私たちは、社会がよりよくなっていくことによって、安心して暮らしていくことができます。

そして、私たちは同じ社会に生きる多くの人たちから支えられているのと同時に、自分自身も「この社会を支える存在」であることを忘れてはなりません。一人ひとりが積極的に「誰かを支える側」として尽力していくことによって、社会がうまく機能するのです。

社会人であれば、仕事に励むことも社会を支える手段の一つでしょう。それとともに、身近な生活の場である地域社会にも目を向け、地域に生きる一員としての意識を高めていきたいものです。

町内での役割を引き受けること、地域で行われる行事や奉仕活動に協力すること……。さまざまな方法があるでしょうが、まずはみずからが発信源となって、隣近所の人たちと心のこもった挨拶を交わすだけでもよいでしょう。そうすることで、心が通い合い、互いに助け合うことのできる温かい人間関係の輪が町全体に広がっていったなら、どんなにすばらしいことでしょうか。

今、自分のいるこの場所で、自分にできる精いっぱいのことをして光り輝くことで、周囲は明るくなります。一人ひとりの力は小さなものであっても、それが集まれば大きな力となり、やがて社会さえも変えていくことができるのではないでしょうか。

(『ニューモラル』543号より)