「継続」がもたらすもの
新年を迎えるにあたって、あらためて掲げた目標や、何か新しく取り組み始めたことはありますか? しかし何事も、初めは張り切っていたとしても、徐々に気持ちに緩みが生じてくるもの。時には困難に直面し、挫折しそうになることもあるでしょう。「心に決めたこと」を続けることで、私たちは何を得ることができるのでしょうか。
■磨くほどに見えてくるもの
始めたころは楽しかった習い事。ところが、そのうちに地道な練習が面倒になったり、試合に負けたり、一緒に練習していた友だちがやめてしまったりしたことで“もうやめようかな”と思うようになった……そんな経験はありませんか?
それでもなお、一つのことを続けていくことにはどんな意味があるのでしょうか。こんなエピソードがあります。
Kさん(40歳)の会社では、中堅・若手の社員が毎朝、順番でトイレ掃除を行うことになっています。
掃除の方法は人それぞれです。時間をかけて丁寧に行う人もいれば、便器を軽く磨くだけの人もいます。
Kさんはどちらかというと、後者のタイプでした。早く片付けて仕事に取りかかろうという気持ちと、どこかに“自分だけが一生懸命にやっても、特別きれいにはならない”という思いがあったからです。
ところがある日、Kさんが出社早々にトイレに行くと、後輩のTさんが洗面台の下に潜り込んで、熱心に磨いていました。
そんな場所を磨くなど考えてもみなかったKさん。見れば、便器も床もKさんが当番のときと比べて、格段にきれいになっているように感じます。思わず声をかけると、Tさんはこう言いました。
「洗面台の下まで磨くと“やり切った”という気持ちになるんですよ。僕も前からこうしていたわけじゃないんですが、あるとき便器の汚れが気になって、時間をかけて何度も同じ場所を磨いたら、すごくきれいになった気がしたんです。床も洗面台も磨けば磨いただけきれいになるし、それがおもしろくなると掃除も苦にならないから、不思議ですね」
■「平凡」 の積み重ねが「非凡」を招く
「掃除を通して心を磨く」という理念のもと、全国で活動を展開する「日本を美しくする会」は、現在相談役を務める鍵山秀三郎さん(㈱イエローハット創業者)の提唱により始まったものです。
半世紀ほど前、鍵山さんが会社を興したころは、高度経済成長と反比例するかのように日本人の心が荒んでいった時代だったといいます。その中で、社員の心をどうしたら少しでも穏やかにできるかと考えた結果が「身近な場所をきれいにすること」でした。人は日ごろ見ているもの、接しているものに心が似てくるはず――そんな思いから、鍵山さんは社内やその周辺の掃除を始めたのです。
「あなたのやっていることは、ざるで水をすくうようなものだ」と言われても、こつこつと掃除を続けた鍵山さん。やがて社員も一緒になって取り組むようになり、よそからも「掃除の仕方を教えてほしい」と頼まれるようになりました。
鍵山さんは、自分自身の人生を「凡事徹底」という言葉で表しています。つまり「誰にでもできる平凡なことを誰にもできないくらい徹底して続けてきた」ということです。そして「平凡な努力の積み重ねこそが大きな成果を招く」とも。
「ざるで水をすくっても、必ず二滴か三滴はたまる。それを繰り返しているうちに、バケツにいっぱいになり、たらいにいっぱいになる」と語る鍵山さん。こうした思いで続けてきた活動が、多くの人の心を動かしているのです。
(参考= 『凡事徹底が人生を変える』 『凜とした日本人の生き方』 ほか)
■小さな積み重ねが大きな力に
「継続は力なり」というように、目標を持ち、それに向かってこつこつと努力を続けることは、自分自身に力を与えてくれます。それは、努力の末に物事を成し遂げたときの達成感や、確かな判断力であったり、困難を乗り越える力であったりします。また“自分もやればできるんだ”という発見は、より高い目標に挑戦する原動力にもなるでしょう。
何より、物事の大小にかかわらず「心に決めたこと」を成し遂げるために一歩ずつ進んでいく歩みそのものが、私たちの生活や人生の全体を、より確かなものにしてくれるのではないでしょうか。
小さなことでも何か一つ、目標を持って、この一年を過ごしてみませんか。
(『ニューモラル』536号より)