明日をつくる心がけ

私たち一人ひとりの生き方は、周囲の人々にも影響を与えます。環境問題などの例では、その影響の及ぶ範囲は「地球全体」ともいうことができるでしょう。また、その影響は今を生きる人々だけでなく、遠い未来の子孫にまで及ぶこともあります。自分自身も、周囲や全体の人々も、そして子孫の世代も含めて、皆が心豊かに生きていくためには、どのような心がけが必要でしょうか。

■限りある資源

現代の快適で便利な生活は、地球から生み出されるさまざまな資源に支えられています。それらは石油や石炭、天然ガス等のエネルギー資源も含めて、無限にあるものではありません。一方、世界の人口は増え続けていて、およそ35年後には今よりも20億人以上増え、90億人になると予測されています。人口が増えると、その分、さらに資源が必要になることでしょう。“自分一人がこの程度の浪費をしても、たいしたことはない”と考えて、一人ひとりが好き勝手に資源を使い続ければ、どうなるでしょうか。限りある地球の資源で、人間の飽くなき願望を満たし続けることは不可能です。今後の環境や資源などの問題を考えるうえでは、あわせて私たちの心のあり方も見直していく必要があります。

■「もったいない」という心がけ

地球環境への関心が高まる中、問題解決の鍵として世界から注目されているのが「もったいない」という言葉です。「水が出しっぱなしよ。もったいない」「もったいない食べ方をしないで」等、日本では日常的に耳にする言葉でしょう。そこには「そのものの値打ちが生かされず、無駄になるのが惜しい」といった意味も含まれています。

地球環境保護運動に尽力したケニアのワンガリ・マータイさん(ノーベル平和賞受賞者)は、来日時にこの言葉と出会って感銘を受け、世界に広めることを提唱しました。この「MOTTAINAI運動」に関して、自然と環境について考える塾を全国各地で主宰する月尾嘉男(つきお・よしお)東京大学名誉教授は、次のように述べています。
        *
「『もったいない』を英語で表現すると、『ホワット・ア・ウェースト!』すなわち『なんという無駄!』ということになるそうであるが、そこには我々が実感するような自然への感謝の気持ちや、モノを粗末にしないという倹約の精神は反映されていない。(中略)これまでの日本では、寿司も漫画も布団も、海外で評価されてはじめて自分の資産の価値を見直すということが通例であった。しかし、これからは自身で日本独自の文化の価値を発見していく姿勢が必要である。そのような意味で『もったいない』は、国際社会への披露はマータイさんの世話になったが、ぜひ日本として推進していくべき活動である」(月尾嘉男著『100年先を読む』モラロジー研究所刊)
        *
私たちの先人は、「もったいない」の精神でその物の価値を生かしきり、資源を浪費せず、次の世代のために保ち、残してきました。この精神をしっかりと受け継ぎ、一人ひとりが日々の暮らしの中で車や電気・ガス・水・紙等の使用をできるかぎり抑えるほか、どんな物も大切に扱い、リサイクルも含めて十分に活用していく努力をすることが、私たちにできる小さな心がけの一つといえそうです。

■一人ひとりの心がけが未来をつくる

先人たちは、限りある資源や物のよさを見いだし、その恵みに感謝して、世のため人のため、また、子孫世代である私たちのために、大切に役立ててきました。そうした先人たちの努力の積み重ねがもたらした収穫を手にしている私たちは、先人に感謝するとともに、周囲や全体、そして次の世代のことまで考えて、新たな種をまいて生きる務めを担っているのではないでしょうか。何事も一時的な効果ばかりにとらわれて、他を顧みることなく突き進めば、たとえそのときはよいように見えても、長続きはしないでしょう。常に長い時間の中で物事を見る目を養い、全体的な発展を期して行動していくことが大切です。

イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェル(1738~1822)は「友よ、われわれが死ぬときには、われわれが生まれたときより、世の中を少しなりともよくしていこうじゃないか」という言葉を残しました。子孫たちのために、自然環境や資源、社会、文化、生き方なども、すべて少しでもよい状態にして、大切に受け継いでいく。そのために今、私たちの日常においてできることを考え、行動を起こしていくことで、未来だけでなく、今を生きる私たち自身の心と暮らしも豊かになっていくでしょう。

(『ニューモラル』515号より)