命のつながり・心のつながり
私たちは、自分1人の力で人生を全うすることはできません。
私たちの命は、はるかな昔から、多くの先祖たちによって親から子へ、子から孫へと受け継がれてきたものです。そこには命のつながりだけでなく、〝わが子を大切に守り育てよう〟〝子供や孫の代の暮らしが少しでもよくなっていくように〟という、先祖たちの思いのつながりもあったことでしょう。また、周囲に目を向ければ、家族以外にも学校や職場、地域社会でふれあう人など、さまざまな人とのつながりの中で支え合って生きていることは、言うまでもありません。
そのように深くて広い「つながり」の中にあって、私たちは今、どのように生きたらよいでしょうか。
■「命」と「心」をはぐくむ家族
私たちは、誕生してから今日この日を迎えるまで、たくさんの人たちとの「つながり」に支えられて生きてきました。その中でもいちばんの基本と言えるものが、両親をはじめとする家族との「つながり」でしょう。
まず、私たちは父親と母親の存在があって、この世に生まれてくることができました。特に母親は、1人ひとりの子供のために自分自身の命をかけて、出産に臨んだことでしょう。さらに、誕生後は両親・家族をはじめとする多くの人々の間で養い育てられ、成長していきます。そして、「人は教育によってのみ人間になる」とも言われるように、私たちは周囲の人々に導かれながら、社会の中で生きるための基本的な能力や知恵、物事の善悪や社会の決まりなどを学び取るとともに、生活習慣を身に付けて「人間らしく生きる方法」と「人間としての心」を得てきました。
私たちの今日があるのは、親や家族などから〝どうかこの子が無事に生まれ、元気に育っていくように〟〝社会の中でしっかりと生きていくことができるように〟という思いを注がれてきた結果であるとも言えるのです。
■はるかな昔から受け継がれるもの
そしてまた、今日の私たちがあるのは「直接に生み育ててくれた両親や家族のおかげ」というだけにとどまりません。私たち1人ひとりには、自分を生んでくれた両親がいます。その父と母、それぞれに両親がいますので、祖父母は4人。その祖父母にもまた、それぞれに両親がいて、曽祖父母が8人。このようして自分から30代さかのぼると、計算上は21億人を超える先祖たちが、自分の命をつなぐために存在していたことになります。私たちの命と心は、そうしたはるかな昔から〝次の世代を大切に生み育てよう〟という思いとともに、親から子へ、子から孫へと受け継がれてきたものです。
次に紹介するのは、そうした数限りない先祖との「つながり」に気づいた千葉県の小学生・木津暢一郎くんのエッセイです。
ぼくの先祖ってどんな人だろう?
ぼくのお父さんがうまれた富山市では8月に花火大会がある。お母さんが生まれた京都市では大文字送り火がある。ぼくは小さいころから見るのが大好きだ。「花火大会も送り火も、先祖に感しゃするためにあるんだよ。」と、今年はじめてお父さんに教えてもらった。(へぇー、そんな意味があったんだぁ。でもぼくの先祖ってどんな人なんだろう)と、ぼくは、はじめて自分の先祖の事を考えた。
この前、家族で「おくりびと」という映画を見た。家族が死んでしまって悲しいのに天国へ行けるように願ってがんばっているのでえらいなと思った。会った事もないぼくのたくさんの先祖も、こういう事を何回もくり返してきたんだよね。そうじゃなかったら、ぼくは生まれてこなかったかもしれない。
ぼくは先祖に感しゃして、自分も大切にして、次につなげなきゃいけない。ぼくには大切な役目があるんだ。家族のきずなも命のきずなもつなげる事が、一番大切なんだよね。
(モラロジー研究所主催「生涯学習フェスタ2009」家族のきずなエッセイ優秀作品より)
■過去と未来をつなぐ私たち
私たちは、自分の力だけで生きているのではありません。そう自覚すれば、「自分の人生なのだから、どのように生きても自分の自由だ」ということはできないでしょう。木津くんのエッセイにあるように、私たちは、たくさんの先祖から受け継いできた自分の命と心を大切に守り育て、これを子孫へとつないでいく使命を帯びた、「命のリレーランナー」なのです。その使命に気づいたとき、「自分はかけがえのない存在である」という自覚が芽生え、力強く生きるためのエネルギーが得られることでしょう。
また、そうした私たち1人ひとり、1つひとつの家庭が集まって国家・社会が形づくられているということも、忘れてはなりません。
私たちもその祖先も皆、国家・社会の中で生かされ、この土地から得るさまざまな物質によって体を養い、生活を営んできました。私たちの命は、国家・社会・土地にも支えられているのです。親祖先はもちろん、そのほかにも自分が受けてきた多くの恩に感謝し、その恩に報いる心を持ったとき、草木が大地にしっかりと根を下ろしてこそ大きく育っていくように、途中にどのような困難があったとしても、ついには未来が開かれていくのではないでしょうか。
(『ニューモラル』502号より)
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